東京大学の附属施設である小石川植物園。日本最古の植物園であり、東京ドーム3.5個分の面積に約4,000種の植物が栽培されている。
2023年9月1日から3日までの3日間、10名のアーティストによるサウンドインスタレーション展示『Sounding Garden of Koishikawa』が開催された。
主催は東京大学のリサーチプロジェクト「memu earth lab」。目には見えていない情報にアプローチし、その深さを測る行為である「サウンディング」をキーワードに、植物と人の関係性を再読する目的で企画された展示だ。
テーマである「小さな音を聴く」の通り、多くの作品は植物の近くに小型スピーカーが置かれ、鑑賞者は近くに寄ることで音を聴くことができる。
園内には「ニュートンの庭にあったリンゴの木」や絶滅危惧種の植物があり、展示目的で行った筆者も自然と植物へ興味をそそられた。
足元を見れば何かの木の実が落ちていて、美しい木漏れ日が揺れている。セミが鳴く夏のサウンドスケープに、ふと田舎で過ごした子供の頃の夏休みを思い出していた。
整備されていない土の道を森の奥へと行き進めると、関東大震災記念碑に着いた。展示期間でもある9/1は100年前に震災が起きた日でもある。
木の上に置かれた複数のスピーカーを通して立体的に流れる音響作品は、どこか鎮魂のようで、心が落ち着いていく。100年前、そこにあった記憶。植物が見てきた風景に想いを馳せる時間になった。
本館の地下へ階段を降りて向かうと、研究中の机のような展示スペースで音が流れていた。唯一の屋内作品でもある。
花の香りをデータに変換し、プログラムによって表された偶然性のある関係性により、音や光がアウトプットされていた。手書きのノートや散らばった実験器具が雰囲気を出している。
植物は無秩序に広がっているように見えて、実はそれぞれの生息空間を持っているらしい。植物が奏でる音 —— 葉擦れや虫、風という音も、植物の関わりによって生まれたり、凪いだりしているという。
配布されていた鑑賞ノートの最後には「貴方が本館の外に出た時、この音楽は続いているでしょうか」と書かれていた。
森の中で「小さな音」に感覚を研ぎ澄ます。植物園には都会の喧騒を離れ、自分と対話できる時間があった。
園を出た生活空間でも、音環境への意識が少し変わるかもしれない。ぜひ常設にして欲しいと思うような素晴らしい展示だった。
執筆:石松豊
※最近の執筆:日本の環境音楽の先駆者・吉村弘。「空気のような音」はいかにして生まれたのか
※9/3(日)に行かれる方は暑さ対策をおすすめします。タオルや帽子を持参したり、入口前にあるショップでお茶を買ったり、中の自販機でアイスを買ったり。あとは冷温室が少しだけ涼しいです。