この記事は、音楽イベントを自分で開催したい!と思っている方へ向けて、大まかな流れの紹介と、より魅力的なイベントを実現するためのポイントについて書いた連載記事です。
新型コロナウイルスの感染拡大により、音楽イベントの数は減ってしまいました。それでも、音楽は心に光を届けてくれるもの。
プラネタリウムやゲストハウスなどで、最大150名規模の音楽イベント企画を開催してきた立場から、今後も小さくてもあたたかい音楽の場・文化の灯が続いていくことを願って、イベントづくりで経験してきたことを記事にまとめて発信することにしました。
全部で9記事あり、今見ている記事は2記事目です。各記事に書いている内容や、どんな人が書いているかは1記事目に書いています。
まずは計画しよう
音楽イベントをやりたい!と思ったら、まずは計画しましょう。
性格によっては勢いで動ける人もいると思います。自分の場合は石橋叩きまくる性格なので、いつも事前にかなり慎重に考えます。
でもどんな人でも、頑張って企画したイベントがうまくいくか、お客さんがちゃんと来てくれるか、など途中で不安に思うことがあると思います。その時に「この企画は絶対おもしろいはず!」と自信が持てる要素を多く持っていると心強いですよね。
その一つの答えが「コンセプト」です。別の言葉で言い換えると、テーマ、世界観、伝えたいメッセージ、体験して欲しい気持ち、などでしょうか。
あなたのイベントでしか体験できない特別なコンセプトがあれば、きっとお客さんも集まるし、来た人はとても満足して帰るでしょう。イベント企画において、コンセプトはとても重要なのです。
なぜ”コンセプト”が大事か
別にコンセプトがなくても音楽イベントは開催できます。しかし、コンセプトはイベント企画をする上でとても重要な要素だと私は考えています。
なぜなら、世の中には多くの音楽イベントが存在するからです。
アーティストでもなくライブハウスでもない”イベンター”がイベントを企画する意義は、ワンマン公演でも、”出演者で集客する”対バン企画でもなく、特定のコンセプトによって「新しい音楽の楽しみ方」を体験できるイベントだと思っています。
もちろんワンマン公演や対バン企画を否定するものではありません。それだけで十分に魅力的なイベントも多くあるでしょう。
しかし、イベンターとしてせっかく企画するなら、独自の視点を取り入れて、アーティストや会場だけではできなかったイベントを実現して欲しい。そこに、イベンターとしての存在価値があると思っています。
この存在価値を最大に発揮するために必要な要素となるのが、コンセプトなのです。
コンセプトは、イベントタイトル、出演者、会場、ライブの演出、開演前や転換などの雰囲気づくり・・など、そのイベントの全要素を決める際に関わってくる根幹の考え方になります。
“魅力的なコンセプト”は、例え出演者のことをよく知らなくても、その体験がしたいからイベントに行く、という流れが起こると考えています。もし他のイベントや予定が被っていても、絶対にそのイベントを優先して行きたいと思う、という流れも起こるでしょう。
“魅力的なコンセプト”があれば、アーティストも数ある出演イベントの中でも、よりワクワクしながら出演してくださるかもしれません。運営を共にするスタッフも、より特別な時間として楽しんで協力してくださると思います。
コンセプトが魅力的であればあるほど、自然と集客数や収支も達成され、関わったすべての人が深い満足感を覚え、より特別な日として思い出に残り、次の動きへと続いていくのです。
だからこそ、はじめにコンセプトを考えることが重要です。
コンセプトがあることで、イベントを進める中で何か迷った時でも立ち戻ることができます。
コンセプトの表現方法
では、コンセプトとは具体的に何なのでしょうか?
例えば、企画したイベントを誰かに紹介する時のことを想像しましょう。
「●●と●●が出演する」や「●●という場所で開催する」という情報も大事ですが、より相手が知りたいのは「結局どういう体験が得られるのか」という情報です。
その言葉こそが、コンセプトとなります。
例えば『星空ごこち』では「星空と音楽のリラックスタイム」。新宿の古き良き小規模プラネタリウムで、リクライニングしながら、星空演出と共に穏やかな音楽をゆったり楽しめるイベントです。
蔵前で開催した『タビノエ』のコンセプトは「音楽から風景を想像すること」。旅を感じるゲストハウスを会場に、風景の映像演出と共にインストなど音楽で旅ができるような演奏を、飲食しながら自由な気持ちで楽しめるイベントです。
コンセプトを考えることは、イベント名を考えることにも繋がります。『星空ごこち』は”星空を見上げるような心地よさ”を呼びやすくしたもので、『タビノエ』は風景を想像するというところから”旅の絵”をカタカナにしました。
イベント名は、コンセプトがなんとなく伝わるものがよいです。初めてイベントを知る人がイベントの内容を想像しやすかったり、気になったり惹かれたりし、覚えやすく、呼びたくなる言葉が理想です。
時には、コンセプトをより詳細に補足するステートメント文章をつくることもあります。例えば、既に東京で活動を終えている原美術館で2021年に開催したオンラインライブ『ひかりの感触』では、Webサイトでコンセプトメッセージを掲載しました。
映像視聴というオンラインイベントだったのですが、このステートメントメッセージを映像の中にも一部取り入れ、イベント参加者に届けました。
コンセプトの生み出し方
魅力的なコンセプトは、どうやって生まれるのでしょうか?
この問いには実は答えがありません。経験や直感による部分もあるためです。しかし、生み出しかたを”型”として理解し、活用することはできます。また、この”型”によってコンセプトを一捻りも二捻りも磨いていくことができます。
広告企画やアイディアの参考書にも様々な型が載っていると思います。ここではシンプルな型を紹介します。
まず重要なのは「Why」。なぜこのイベントを企画したいのか?という自分の動機を探ってみましょう。なぜ今やらなきゃいけないのか。自分がイベントで表現し、共有したい景色は何か。何に葛藤し、使命感を覚えたのか。
次に重要なのは「What」。イベント参加者に何を感じて欲しいのか?という伝えたいメッセージを考えましょう。何を楽しんで欲しいのか。何を記憶に残して、イベントの後からの日々を送って欲しいのか。
その「What」から派生して、どういう「音楽」がよさそうかや、その音楽をどう表現されるのがよさそうかという「演出」、食事や椅子などの「居心地」を考えていきます。
そして「Who」。届けたい人は誰かを考えます。更には「Sociey」、社会に訴えたいこと、イベントがどういう存在でありたいか、何を変えたいか、などを想像していきます。
発想のとっかかりとなる「企画の種」は、「あ、こういう空間素敵だな」「これとこれ一緒は最高っしょ!」等で十分です。難しく考えずに、楽しく、そしてある程度”思い込んだ”方がアイディアは広がっていくでしょう。
逆に「コロナで絶望しない心を持たせたい」「no warの気持ちを感じて欲しい」という大きな、真っ直ぐな気持ちも明確なメッセージになり得ます。
そして、これら一連の要素が「ストーリーのある企画」になっていることが重要です。あなただからこそ、あなたがやるべくしてやった、という必然感があればあるほど、個性的で自信の持てるイベントになります。
企画という言葉には、新しいアイディアを考えるというニュアンスがあります。この新しいアイディアの種は、様々な場所から得ることができます。
有名な言葉で「アイディアは既存の要素の組み合わせ」とありますが、”既存の要素”の引き出しを幅広く持つことで、アイディアの幅が広がります。
幅の広さは、計画しよう!となった時にリサーチをすることなどで得られます。参考になるイベント情報をオンラインで集めることでヒントを得たり、実際に会場や街へ出ることで来場者の気持ちを発見したりすることもあります。
また、イベントとは一見関係なさそうなことがヒントになることもあります。近道は、企画するあなた自身の価値観、視点、好みをできるだけ自覚すること。自分が心地よいと思う瞬間を誰かに共有したい、という視点からコンセプトが生まれていきます。
自分にとって当たり前に思っている日々のことも、誰かにとっては新しく魅力的な考えになるかもしれません。たとえば、優しいピアノ音楽を眠る前に聴くと安心するという体験が、プラネタリウムで穏やかな音楽を楽しむ企画に変化したりします。
他の誰でもない個人的な体験や強い想いがあればあるほど、コンセプトはオリジナル性を増し、イベントはより魅力的になると信じています。
ちなみに、それらは一人で考える必要はありません。誰かと話すことで、自分の持っていない視点を得ることができます。対話の中で新しいアイディアが生まれることはよくあります。
企画書のすすめ
コンセプトや内容がある程度固まってきたら、企画書を準備するとその後の進行がとてもスムーズです。
企画書があると、会場や出演者、スタッフなど、イベントに関わる全ての人に、同じ言葉やイメージを使ってイベント内容を共有できます。
自分は仕事柄かっちり資料として作るのが好きなのですが、テキスト箇条書きでも内容が伝われば良いと思います。
大事なのは、コンセプトを初めとした「イベントで実現したい景色を言葉にする」こと。なぜイベントがやりたいのか。何を実現したいのか。そのためにどういう準備が必要なのか。などを企画書にまとめていきます。
参考までに、自分の企画書の目次を共有します。また、サンプルとして実際に『ひかりの感触』で使用した企画書もこちらからご覧ください。
- 自己紹介
- イベント事例
- 企画背景
- コンセプト
- 概要
- 出演者案
- PR
- スケジュール
- その他イベント概要
その他の記事について
次は、②音楽イベントを一緒に形づくる出演者・会場・スタッフへのオファー方法について紹介します。
その他の記事についても、以下のリンクから閲覧いただけます。
About
このブログ『音楽イベントの作り方』は、音楽イベント企画『orange plus music』が日々執筆しています。自分の好きな「穏やかな音楽」を好きになって欲しいという思いで、2018年よりプラネタリウム・ゲストハウス・演芸場・重要文化財など様々な場所でライブイベントを開催。また本業では会社員としてデジタルマーケティングやクリエイティブ制作の広告代理業にディレクターポジションで関わっています。音楽の場が継続していくために、自らイベントを企画する人が増えることを願って、企画段階から告知、準備、運営、事後まで含めた音楽イベントづくりの豆知識を記事で発信しています。