
3月2日から3月10日にかけて北茨城市で開催された桃源郷芸術祭に、「Past Landscape, Music For Closed School」という音の作品で参加しました。
桃源郷芸術祭は、北茨城市の地域おこし協力隊が主催する芸術祭。2年目の2019年は、旧富士ヶ丘小学校を利用したアートスペース「期待場」を会場として開催されました。

北茨城市は海も山も近い場所。五浦海岸には岡倉天心が活動拠点としていた六角堂があります。食べ物としては「あんこう鍋」が有名です。

なぜ参加したのか
CINRAのコーポレートサイトを2017年にリニューアルした時、ディレクターを担当しました。そのトップページの映像に、”頭上建築”の都築響子さんに出演頂きました。

撮影した当時は「同い年だし、建築を広めるために頭に六角堂を乗せていることがとても面白い!」という印象で、彼女が主催している芸術祭についてはあまり多く知りませんでした。
2018年に「タビノエ – きこえる音、うかぶ風景 -」というイベントを開催したのですが、その時に都築さんが共感/応援してくれたこと、またちょうど東京/リトルトーキョーで開催されたイベントに都築さんが来ていて再会したことをきっかけに、「桃源郷芸術祭でタビノエみたいなイベントしちゃう?」という流れに。
ライブイベントは料金やアクセスの関係でハードルが高く、それならば何か自分で作るか・・?みたいなことをもんもんと考えた結果、一度公募期間を過ぎてしまったものの、再び「何かやろうよー!」とお声がけ頂き(本当に感謝。。)、まずは北茨城市に行ってみることにしました。
北茨城を @tsuzukikyoko さん達に連れられ回った日でした。久利山精肉店のチューリップ(唐揚げ)→大津港→高砂屋の海鮮丼→六角堂→てんごころのプリン→期待場(旧富士ヶ丘小学校)→おふくろの唐揚げ弁当。六角堂から見た海は、岩壁に当たる波音が、色んな角度から複数種類きこえてきて心地よかった。 pic.twitter.com/ek5rAJEHcK
— がちゃーん / 石松豊 (@orange_plus_me) December 2, 2018
そして、会場の元小学校に行った時に、もう使われていないたくさんの楽器たちと出会います。
何を作ったのか
楽器を使って音の作品を作りたい!そしてできれば何らかの視覚表現や、インタラクティブな体験が欲しい。
そう思った時、大学時代の友人で今はカヤックにいるエンジニアゆみこふ(國分友美子)に共同制作を依頼することにしました。大学時代に企画したフェスのWEBサイトを制作してもらったり、自分のバンドのVJをお願いしたことがあったり、何より趣味や感覚が合う。
自分がコンセプト周りや音楽制作を担当し、ゆみこふに映像やシステム制作を担当してもらいました。

コンセプトは「元小学校の環境音楽」。久しぶりに訪れた小学校で、音をきっかけに懐かしさが増することができないかということを考えました。

実際に3泊ほど滞在制作し、各楽器の音を録音。校歌や教科書に出てくる曲を演奏したり、子供が練習しているようなBGMを録音したりしました。

作品の仕組みを簡単に書くと「①BGMが最初から流れている」「②MIDIキーボードを少し弾くと、BGMは楽曲に変わる。また楽曲に合わせた映像が流れる。」「③楽曲が流れ終わるとBGMが再び流れる」というもの。
楽器を壁に並べて積み、映像はプロジェクションマッピングで楽器に合わせて投影することを想定していました。
波乱の1日目
しかし、制作が間に合わず完成していないまま当日を迎えました。(本当に申し訳ない)
本業の仕事がある中での制作など進行上の反省点が多々ありますが、芸術祭初日の一番人が多いタイミングで、中途半端な状態でしか公開できなかったことを悔しく思います。具体的には、映像が間に合わなかったため、静止画に切り替わる対応で公開していました。
ただ、この日に実際の体験者が100人ほど訪れて、中途半端な状態ながらもリアクションを起こし、感想を述べてくださったおかげで、どの部分を改善すれば驚きがあるか?面白いか?という点がすぐにまとまり、ブラッシュアップが始まりました。
作品を公開する責任感を覚えたと共に、実際に触ってもらう人の視点で作るという大切さを感じた経験でした。「来年も出るんやろ?しっかり作ってこい!」と叱ってくれた地元のおじさんの言葉も忘れられない。
追い上げた2日目以降
その日の夜は深夜まで作業。泊まったホテルの人も「芸術祭で来てるの?いつもは開放してないけど、深夜までここ使っていいよ」とスペースを提供してくださる優しさ。
クオリティはさておき映像も何とか完成。そして、初日の反省を受けて「④曲の間に鍵盤を押すと、ドラムやタンバリンにアニメーションが流れる」というインタラクティブ機能を実装。
すると、こどもに大人気の部屋になり、百倍くらい楽しくなりました。


簡単なムービーを作ってみたので、音や映像の雰囲気はこちらからご覧ください。
作品が回り始めて、嬉しかったことがたくさんありました。
・大人は狙い通り、楽器を見て懐かしいなと思ってくれる。「楽器も嬉しいだろう」「小学校ってかわいかったんだ」という声も。
・卒業生も多く、校歌に驚いてくれる。ボランティアスタッフのおばあちゃんが、小学校時代の昔話をしてくれた。
・楽曲を知っている人は歌ってくれる。鍵盤でアレンジを加えてくれた人も。
・(壁の楽器は本当は触ったら崩れるから危ないんだけど、)みんな木琴やタンバリン、太鼓に触って楽曲に合わせて音を出してくれる。
・こどもはわんぱく。目の前で「すごい!楽しい!」と純粋に遊び続けてくれる。ずっと海を見入ってくれた男の子、1時間くらい遊んでいた姉妹。1日に何度も来てくれた親子連れ。
・音楽いいですね!とか、映像かわいい!とか褒めてくれる。ライブに出演されていたアーティストさんからは、コンセプト素敵ですね!と言って頂いた。

自分の表現を、拙くても肯定されるって嬉しいなと心底思いました。
感想と芸術祭について考えたこと
インスタレーション作品の制作は初めてでしたが、挑戦してよかったなと思います。多くの人に、そして普段関わらない老人やこどもに自分の表現を届けるよい機会でした。
音やデジタルの可能性を再認識したし、出会いがあったので、次の機会もきっとあるはず。もっとクオリティ高いものを作っていきたいです。

そして、作品を作る中で現地に何度か通ったり、準備や運営における主催側の動きを少し垣間見れたこそ、地方の芸術祭について考える機会でもありました。
芸術祭の最終目的は、その地域の関係人口を増やすことだと思います。観光や移住に限らず、ふるさと納税など遠くに住んでいても継続的に関係するような人が増えると、地域にとって力になる。
いま全国で多くの芸術祭があり、続いている芸術祭、延期になる芸術祭など様々。続いている芸術祭に共通するのは、地域の人を巻き込んで、地域のイベントとして運営していることだと感じます。
桃源郷芸術祭では、地元の多くの人が芸術祭に共感していることが伝わってきました。例えばボランティアのおばあちゃんの一人は、文化衰退や人口減少への危機感から芸術祭に参加し、来場者に自らの言葉で語りかけていました。「地域のことは地域が守る」という意思を持って。
アーティストは芸術を通して地域の価値を再発掘し、作品として新しい形で提示します。でも、来場者は素通りしてしまったり、しっかり見なかったりと、その作品の魅力はただ展示しているだけでは届かないこともある。
そういう時、地元のおばあちゃんが「この作品おもしろいから見ていき!」と呼びかけすることで、普段デジタルにも触れないようなおじいちゃんが作品に触れるという”奇跡”が起きる。そんなことが目の前で起こってました。
インターネットやWEBサイトが分からない地元の人だって、好奇心があって、自ら人との接点を求めている。この現実に、いつも都会にいて発信する側としては勇気をもらいました。
また、去年の桃源郷芸術祭の噂を聞いて来場した人に何人も出会い、少しずつ輪が広がっていることを感じました。アーティストが来て更に輪が広がることを喜んでいる人もいました。
色々書きましたが、開催2年目にも関わらず、多くの人の協力や共感があるのは都築さんや成川さんなど主催者側の努力/キャラクターのパワーだなと思います。どんな人にも真摯に話し、ポジティブに考え、体力尽きるまで動き、いつも笑っている。最強だしすごい、尊敬します。彼女たちに、ムーブメントは自ら時間をかけて起こせるということを教えてもらった気がしました。
北茨城に必要な祭となった桃源郷芸術祭。来年も楽しみですね。
#桃源郷芸術祭 おつかれさまでした!撤収後、夢子さん作品の前に楽器と机を並べた図。楽器たちはまた静かに眠る。 pic.twitter.com/FCzivMVhpY
— がちゃーん / 石松豊 (@orange_plus_me) March 10, 2019
